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自然栽培

What is shizensaibai?

自然栽培ってなに?           有機栽培とはどう違うの?

まだ、世の中に知られているとはいえない自然栽培。有機栽培とどこが違うの?という声もよく聞かれる。
ということで、有機栽培と自然栽培を比べながら、この“古くて新しい栽培”を解説する。

Shizensaibai is still not well known in the world. How is it different from organic farming?
The voice is often heard. So, I will explain this “old and new cultivation” while comparing organic and shizensaibai.

法的な根拠はないが、求められている自然栽培

まず大前提として、「自然栽培」は国によって認証された栽培ではない。一方、いま市場に出回っている「有機」と名が付く農産物は、2001年に施行された有機JAS制度に基づいていて、第三者機関が検査して認証している。 自然栽培には法的根拠はないが、販売店や生産団体などが基準を設けており、取り引きする生産者との間で理念や基準が共有されていると考えられる。 こうしたことから、法律で定められた有機栽培と、理念としての自然栽培を比べるのは土台が異なるということを念頭に置いておきたい。とはいえ、消費者への調査を見ると、自然栽培は確かに求められているのだ。

有機栽培=無農薬の誤解

自然栽培とは、農薬はもちろん肥料も使わない栽培だ。ここでいう農薬とは化学合成された農薬だけでなく、有機JAS制度では使用が認められている天然物質由来の農薬も基本的には使用しない。 「え?有機栽培は無農薬じゃないの?」と思う方がいるかもしれない。 実は、有機栽培=無農薬ではなく、天然由来の農薬48種類(「有機農産物の日本農林規格」最終改正2017年3月27日)の使用が認められている。天然由来の農薬といっても幅広く、食酢もあれば硫酸銅のような劇物指定されているものも含まれている。もちろん、有機栽培だからといって、これらの農薬が必ず使われているわけではない。また、自然栽培ではもちろんだが、有機栽培でも除草剤や遺伝子組み換え種苗は使用できない。

一般の流通では「無農薬」と表示できない

少し話が逸れるが、実は「無農薬」「減農薬」「無化学肥料」というような表記は、「農林水産省新ガイドラインによる表示(2007年改正)」で禁止されている。 こうした表示のガイドラインは法律ではなく、自主的に守られるべきもの、という位置づけだが、事実に基づかない場合は消費者庁の「景品表示法」の優良誤認に当たる可能性がある。 一方で、生産者と消費者が直接結びついていて、相互に納得したかたちで売買されている場合はガイドラインの対象外となっている。このことは、小・中規模の自然栽培農家とその農産物を求める消費者にとって、拠り所のひとつと言える。また、「自然栽培」という表示は、「特別農産物」の一括表示の枠内に記載することは認められていないが、従来からの明確な基準による農法の場合は一括表示枠の外に記すことは認められている。

農薬も肥料も使わない自然栽培

表示の有無はともかく、自然栽培では天然由来の農薬も基本的には使用しない。“基本的には”という意味は、農家によっては、病虫害の忌避効果を期待して食酢を希釈して使う場合があるからだ。食酢は「特定農薬」に指定されているので、表示のガイドラインに従えば、食酢を使用したら厳密には「無農薬」とはいえない。とはいえ、消費者にとっては、食品である酢がいわゆる農薬と異なることは明らかだろう。 もうひとつ、自然栽培の大きな特徴は、肥料を使わないことにある。この場合の「肥料」には、化学肥料はもちろん、有機肥料も含まれる。有機肥料の定義は広く、泥炭、畜産現場や漁業現場からの動物性廃棄物、植物性廃棄物、下水汚泥なども有機肥料の原料になる。これらを一切使わないことも、有機栽培と自然栽培の大きな違いだ。

A Light Wind Swept Over The Corn, And All Nature Laughed In The Sunshine.

FEATURE

COLUMN

自然栽培と有機栽培

有機肥料も使わない理由

なぜ、このような栽培をするのか。農薬はともかく、肥料のなにが悪いのか? 肥料を与えずに作物ができるわけがない、という声も少なくない。たしかに肥料はやせた土に栄養を与え、作物を大きく生長させ、生産性を上げる大きな役割を果たしてきた。 しかし、実際に、自然栽培に取り組む生産者は、有機肥料さえも使わずに作物を収穫している。彼らに肥料を使わない理由を聞くと、次のような答えが帰ってくる。 ・肥料を使わないほうが病虫害が出にくい ・肥料がないので根をしっかり張るから倒伏しにくい ・収穫後の作物が腐りにくい ・労力はかかるが肥料代がかからない ・土とシンプルに向き合うことができるので取り組みやすい ・作物の味がすっきりしている 「収穫後の作物が腐りにくい」「作物の味がすっきりしている」という点は、消費者が自然栽培を選ぶ理由にもなっている。さらに、肥料のなかでも窒素過多が作物の生育に悪影響を及ぼし、収穫物自体を酸化させて腐りやすくなることは一般的にも知られるようになってきた。また味についても、窒素過多は苦味や雑味の原因になる。子どもが自然栽培の野菜なら食べてくれる、という声を聞くことがあるが、窒素過多の影響が野菜を不味くしている可能性がある。

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自然の生態系と多様性を回復させる

肥料を与えなくてもできる理由にはどのようなタネを選ぶかということも大きい。その土地に合ったタネを選び、自家採種を続けることで、年々作物と土の性質が合っていき、生育がよくなるという例を多くの自然栽培農家が経験している。 農薬を使わないためには、生態系の多様性、生物多様性を高めていくことも重要だ。特定の病気や虫の大発生は、生態系のバランスが偏っていることが考えられる。ただ難しいのは、生態系はその田畑だけで成り立つものではなく、周囲の環境も含めてのことなので、周辺で肥料と農薬を多用する慣行栽培が行われている場合は、多様性の回復は簡単ではないだろう。こうしたことからも、慣行栽培からいきなり自然栽培に転換するのは困難を極めることが多い。肥料と農薬を使い続けた期間が長いほど、それらをやめた途端に、作物は栄養不足となり、病虫害が激発するからだ。

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自然栽培をすべての栽培の基本に

2020年まで弘前大学能楽生命科学部教授だった農学博士の杉山修一さんは、最新著書『ここまでわかった自然栽培』(農文協)のなかで、自然栽培に移行する前に有機栽培で環境を整えることを推奨している。また、長い間放置されていた耕作放棄地は、肥料と農薬の影響が少なく、雑草などによる有機物も多いので自然栽培をしやすいこともわかってきた。 気候変動や紛争など、世界的な情勢を考えても、輸入資材に頼り続けることは持続可能ではないだろう。 「肥料も農薬も使わずにできるわけがない」と言われた自然栽培だが、取り組む農家は、この15年ほどの間に北海道から沖縄まで着々と増えている。10年以上の歳月を経てきた彼らの根底にあるのは、人が蔑ろにしてきた自然への敬意だ。失敗と成功を共有しながら技術は伝達されている。 肥料ありき、農薬ありきの栽培ではなく、その土地や地域環境がもつ本来のポテンシャルを見直して、改めて足りないものを補っていくという視点になれば、経費が抑えられ、農業経営も楽になるのではないだろうか。日本の豊かな自然環境を活かすことができる、古くて新しい自然栽培の技術が、すべての栽培の基本になる未来を描きたい。

ほうれん草

自然栽培の作物は抗酸化力が高いって本当?

自然栽培の農産物には健康効果があると言われることあるが、はたして根拠は? 科学的なエビデンスを得るために、研究機関に自然栽培の野菜の分析を依頼した結果を紹介する。

年間3000検体、データ蓄積15年以上の専門機関で測定

分析を依頼したのは、外食・中食産業へ野菜の卸売りを行い、研究部門を併せもつデリカフーズ株式会社(Farm to Wellness倶楽部)。グループ全体で年間3000検体の成分分析を行っており、全国から届いた慣行栽培を含むさまざまな野菜の分析データの蓄積は15年以上にもなる。

同社の分析は野菜の見た目ではなく「野菜の中身評価」で、「糖度(Brix)」、「ビタミンC」、「硝酸イオン」、「抗酸化力(活性酸素除去能力)」、「味」の分析を行う。これらをポイント換算して、バランスをグラフで見ることができるのだ。

理想形は、硝酸イオンが各野菜に見合った適量で、残りの3項目(糖度、ビタミンC、抗酸化力)が平均値よりも高いこと。グラフの形としては、右に寄った二等辺三角形が望ましい。

 

ホウレンソウのグラフは野菜の理想的な形に

持ち込んだ野菜はホウレンソウとニンジン。それぞれ3検体を生産者を変えてランダムに選んだ。

まずはホウレンソウ。ビタミンCを見てみると、ホウレンソウAが92.5㎎/100g、ホウレンソウBが73.6㎎/100g、ホウレンソウCは128.1㎎/100g。全国平均値(グリーン)は49.0 ㎎/100gで、その差が歴然としている。ちなみに、厚生労働省による成人のビタミンC推奨摂取量100㎎/日なので、これをカバーするためには全国平均値のホウレンソウは200g以上食べる必要があるが、ホウレンソウCならその半分の100g食べればカバーできることになる。糖度についてもすべて全国平均値を上回っている。

また、一般にホウレンソウでは高くなりがちな硝酸イオンの数値が非常に低い結果になったので、いずれのホウレンソウも右に寄った三角形のグラフになった。特にホウレンソウCは理想的な形と言える。

【ホウレンソウ生産者】*自然栽培はすべて露地栽培

A…自然栽培年数7年目

糖度11.4%、抗酸化力155.7 TE㎎/100g、ビタミンC 92.5㎎/100g、硝酸イオン29.3㎎/L

B…自然栽培年数2年目

糖度8.8%、抗酸化力224.8 TE㎎/100g、ビタミンC 73.6㎎/100g、硝酸イオン46.3㎎/L

C…自然栽培年数5〜6年目

糖度10.8%、抗酸化力259.9 TE㎎/100g、ビタミンC 128.1㎎/100g、硝酸イオン<15㎎/L(検出限界値以下)

全国平均値(2015〜2016年3月)

糖度7.7%、抗酸化力67.6 TE㎎/100g、ビタミンC 49.0㎎/100g、硝酸イオン1722.0㎎/L

*自然栽培については、転換前の栽培法や土の状態、草の管理方法、気候条件などによって異なるため、栽培年数はあくまでも参考。

自然栽培15年のニンジンが見せた驚きの数値

ニンジンでは、ニンジンCが栄養価、味とともに高い評価だった。自然栽培年数15年、大面積で連作している生産者だ。肥料を与えなければ作物は育たないという定説を覆すと同時に、栽培年数3〜4年のAとBに比べて糖度とビタミンCが高いことにも驚かされる。ニンジンAとBについては、糖度とビタミンCは全国平均値並かやや下回る結果になった。

硝酸イオンについては、ホウレンソウ同様にニンジンも全国平均値に比べて圧倒的に低い。

【ニンジン生産者】*自然栽培はすべて露地栽培

A…自然栽培年数3年目

糖度7.5%、抗酸化力18.5 TE㎎/100g、ビタミンC 4.4㎎/100g、硝酸イオン11.7㎎/L

B…自然栽培年数4年目

糖度6.8%、抗酸化力13.0 TE㎎/100g、ビタミンC 4.6㎎/100g、硝酸イオン66.1㎎/L

C…自然栽培年数15年目

糖度9.3%、抗酸化力9.7 TE㎎/100g、ビタミンC 6.1㎎/100g、硝酸イオン38.9㎎/L(検出限界値以下)

全国平均値(2015〜2016年3月)

糖度7.9%、抗酸化力6.5 TE㎎/100g、ビタミンC 5.2㎎/100g、硝酸イオン170.8㎎/L

*自然栽培については、転換前の栽培法や土の状態、草の管理方法、気候条件などによって異なるため、栽培年数はあくまでも参考。

植物中の硝酸イオン過多が起こす人体への悪影響

硝酸イオンは土壌などの自然界に広く存在しており、そのもとになる窒素は植物の必須栄養素のひとつだ。人が土に施す肥料には、化学肥料・有機肥料にかかわらず窒素が含まれていて、これが硝酸イオンやアンモニウムイオンになる。植物の中で十分に代謝が行われればいいのだが、肥料を過剰に与えることによる窒素過多や、日照不足、低温などで植物の代謝がうまくいかないと植物体内に硝酸イオンが残ってしまう。

硝酸イオンが多くなると植物中の糖類などがうまくつくられず、苦味や雑味が強まり味が落ちる。また、硝酸イオンの人体への影響として懸念されることの一つはメトヘモグロビン血症が引き起こすチアノーゼ状態(酸欠)だ。胃酸のpHが2〜3の成人ではほとんど起こらないが、胃酸分泌の少ない乳幼児には注意が必要なことがわかっている。このほか硝酸イオンは、発ガン性物質などの有害物質を生成するおそれがあることもわかっている。

野菜には硝酸イオン規制がない日本

硝酸イオンは水道水や食品添加物、動物性食品にも含まれているため、必ずしも植物由来とは特定できないが、EUでは予防原則措置として、野菜の硝酸イオン含有量を制限している。日本では水道水に硝酸イオン含有量の規制(10㎎/L以下)があるが、野菜にはない。先述したようにメトヘモグロビン血症の懸念からも、乳幼児の離乳食に使う野菜は硝酸イオンの少ない野菜を選びたい。

ちなみに、硝酸イオンを構成する窒素(N)を差して「硝酸態窒素(しょうさんたいちっそ)」と呼ぶ。「硝酸イオンの形をした窒素」という意味だ。ときに硝酸イオンと硝酸態窒素は混同されて用いられるが、規制や基準などでは硝酸イオン(㎎/Lまたは㎎/㎏)の値を使っている。

自然栽培の抗酸化力は確かに高いが……

最後に、この2つのグラフに見られる自然栽培野菜の抗酸化力の高さに注文したい。

私たちの生命活動の副産物として生まれる活性酸素は、細胞伝達物質や免疫・代謝の調整という重要な役割を果たす一方で、増えすぎると酸化ストレスが引き起こされ、正常な細胞を傷つけてしまう。活性酸素が増える原因としては、大気汚染、酸化した食品や添加物の多い食品摂取、タバコ、不眠、ストレスなどがある。増えすぎた活性酸素を消すはたらきをするのが抗酸化物質だ。

植物にはさまざまな抗酸化物質が含まれており、今回の検査項目にもあるビタミンCもそのひとつ。同社の抗酸化力の測定にはDPPH法が用いられた。DPPH法は人工的につくられた活性酸素のモデル物質(DPPHラジカル)を検体が消した量を測定するというもので、その結果を「抗酸化力」としてグラフ化している。ただし、現段階ではこの抗酸化力の分析結果がそのまま人体への効果を示すとは科学的に言明できない。

旬の露地野菜、できれば自然栽培を食卓に

これまで同社が分析してきたところでは、自然栽培の野菜は圧倒的にいいデータを出している一方、天候が悪い年などは一気に状態が悪くなることがあるという。おそらく、先述したように植物の代謝にかかわることだろう。ただ今回、ランダムに選んだ合計6検体については、全国平均値と比較して概ね良い結果が得られた。

また、栽培法にかぎらず、旬の露地野菜は良い結果が出ることが多いという。現在の野菜の栄養価は一般に1950年代の栄養価より劣るとされるが、この理由は、ハウス栽培が可能になった結果、季節はずれの野菜の栄養価が平均値に影響していることが一因として考えられている。

自然栽培では露地栽培が多いということも、良い結果に結びついていると思われるが、抗酸化力の高さが突出しているのは肥料(化学肥料・有機肥料)を使わないことが大きな要因ではないだろうか。

ただでさえストレスが多いなか、ウィルスの脅威にもさらされている現代社会。健康維持のために、抗酸化力が高まる可能性がある旬の露地野菜、できれば自然栽培の野菜を選んでみてはどうだろう。

(*本文末の参考クレジット)

分析機関:

デリカフーズ株式会社 Farm to wellness倶楽部

https://www.delica.co.jp/info/fw-club/

転載・引用:

「自然栽培の野菜は抗酸化力がすごいんです」季刊書籍『自然栽培vol.7』(2016年発刊/東邦出版)

参考文献:

e-ヘルスネット厚生労働省

https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-04-003.html

日本人の食事摂取基準(2020年版)

https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf

厚生労働省 水質基準項目と基準値

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/topics/bukyoku/kenkou/suido/kijun/kijunchi.html

日本小児循環器学会雑誌

http://jpccs.jp/10.9794/jspccs.31.95/data/index.html

文:温野まき 野菜撮影:田中昌